研修担当者へのアドバイスA

研修担当者の皆さん今日は。お元気でご活躍のことと拝察いたします。
皆さんには、上司の補佐をする役割があることは、当然ご存知のことと思います。
ところで、では「上司補佐とは何をすることですか」と、聞かれたら具体的になんと答えますか。試しに辞書で調べましたが、分かりません。また、インターネットで検索してみましたが、求める答えは出てきませんでした。
そこで、職場の「管理者研修受講者アンケート(言語データー)」から、上司が部下に求めているものを分析したところ、上司補佐の具体的行動内容が大きく五つに分類できました。
今日はその結果を紹介し、研修業務との関係で考えてみたいと思います。

第一は、報告です。
仕事を管理していくプロセスで、チェック機能の一つである報告は、重要な意味をもっています。部下が報告しないと、上司は"裸の王様"になり、ともすれば意思決定を誤ることにもなります。従って、部下は、事実に基づいた正しい報告(例え悪い場合であっても)をしなければなりません。あなたが新しい研修を企画し、自信をもって実施したとします。研修効果の測定は難しいものですが、アンケートの結果は不評、つまり失敗に終わる場合もあります。その場合でも、事実は事実として、どこが悪かったのか、改善点はどこかを分析し、上司に報告しなければなりません。あくまでも最後の結果責任は、決裁をした上司にあるからです。上司はその報告を受けて、研修部門のPDCAを回し、スパイラルアップを図っていくことになるわけです。

次は、情報提供です。
現在は、技術力・商品開発力が問われる時代です。あなたの上司は、トップから直接社内外の動向を聴き、他の情報源も参考にして、全社的立場で経営戦略、事業戦略など企業の発展・拡大に資する研修は何かを研究しています。しかし、現場第一線の情報(職場の問題点)は必ずしも掴んでいるわけではありません。そこで、職場が困っていること、悩んでいることの事実を掴み、上司に伝えることがあなたに求められてくるのです。そのためには、上司の手足となってできる限り職場へ出向き、現場の"生の声"を掴む必要があります。そうでなければ、第一線職場が求める研修を企画することはできません。また、研修修了者のフォローをすることも大切(特に、新入社員)であり、その状況を上司に伝え、常に上司との「情報の共有化」を図らなければなりません。また、社外交流セミナーに参加し、視野の拡大を図り、その成果を上司に伝えることも良いでしょう。

第三は、意見具申です。
昔の武将は、主人の考えを諫めるために、切腹して訴えた実話を歴史書で読みました。現代ではどうでしょうか。上司は、得てして自分の昔の成功体験で物事を判断する嫌いがあります。しかも、たとえ考え方が、時代の要請に合わなくなっている上司がいても、辞表を懐にして、その上司に諫言する部下の話は聞いたことがありません。皆自分がかわいいからです。上司に睨まれたくないのです。もし、これがトップマネジメントなら、企業の体質は改善されず、負け組み企業の道を辿るか、倒産することも考えられます。
 従って、上司から経営戦略・事業戦略などの研修企画を指示された場合、上司の考えに疑問を感じた時には、遠慮なく、あなたの意見を述べましょう。(話し方には気をつけて)
例えば、ある会社では、かつて「足による営業」で実績を上げ、その業績が認められ、研修部門に栄転してきた方がいます。そこで、営業研修の企画を指示する場合、上司は自分の成功体験による研修企画を押し付けてくるかもしれません。しかし、あなたは、これからは、ソリューション営業・提案営業の時代だと思ったならば、そこで議論すべきです。結果は、営業現場を知らないあなたの意見は通らないかもしれません。しかし、上司にとっては、イエスマンばかりに取り囲まれていると、いつかは失敗することになるのです。ちなみに、上司と部下がお互いに遠慮なく、意見を交わす(話す・聴く)ことができる職場を、「良い人間関係の職場」といいます。

第四は、代理・代行です。
上司が出張した時、休暇を取ったとき、上司が安心してあなたに仕事を任せられるよう、日頃から上司の仕事を観察し、仕事力をつけておく必要があります。(勿論上司も後継者育成の指導をしなければいけません。)そのためには、こういう場合上司だったらどうするか、意識して一段上の上司の立場での判断力(考えるクセ)を習得することです。いつかあなたが上司になった時、必ず役に立ちます。また、研修担当者は、研修の企画立案だけでなく、講師として管理者研修で、上司の代講が出来るよう得意分野をもつことも大切です。(マネジメント・コミュニケーション・問題解決法など)そのためには、自己向上の意欲と努力が必要です。これを、自己啓発の醸成といいます。

最後は、根回し・調整です。
 研修業務スムーズに進めるためには、上司が動き易いように事前の根回し・調整が必要となってきます。現場第一線は、何といっても仕事が優先され、研修は二の次と考えているのが実態です。従って、あなたが、全社的立場に立っていくら斬新な研修を企画しても、上司がこれを役員会で否決されては、実現できません。また、稟議も通らないでしょう。従って、あらかじめ他部門の部課長に研修の企画趣旨を、機会を捉えて事前に説明し、あなたの上司を援助するよう協力依頼をすることも重要です。また、研修実施に当たって人選しても、現場管理者が業務多忙を理由に、対象者を研修に参加させるとは限りません。そのためには、日頃から、職場の管理者に研修への理解・納得と協力を得るようコミュニケーションを密にしておくことが意外と大事なことなのです。そうすれば、職場の管理者に研修の社内講師を依頼した場合でも、気持ち良く応じてくれることでしょう。

ところで、以上五つを主として研修業務の面から考えてみてきました。しかし、上司補佐の現状は、職場の管理者が望むようには、部下が応えてくれず、悩んでいることでもあるのです。例えば、部下が報告してこない、報告してきてもタイミングがずれていたため問題が大きくなり、かえって処理に時間がかかった。(後ろ向きの仕事)こうしたことは、枚挙にいとまがなく、職場では日常茶飯事に起こっていることなのです。それは、何故でしょうか。そのためには、現状を分析し、原因を追究し、対策を考えることが必要になってきます。これをしなければ、いつまで経っても問題は解決せず、生産性の向上(事務処理の生産性も含む)は期待できません。
そこで、これを御社の研修テーマとして採り上げれば、職場の問題解決としての、「管理者研修」となるのです。管理者同士でグループ討議をしていると、原因は意外と上司本人(自分自身)に起因していることに気づかされる場合もあります。(例えば、悪い報告を受けるとすぐ怒る上司の部下は、上司への報告を極力さけるようになるなど)そういう意味では「気づきの研修」とも言えましょう。時間と場所があれば、あなたがコーディネーターとなって実施することができます。そして、職場に密着した、業績向上に資する研修とすることが期待できます。
試してみることをお勧めします。

研修担当者の皆さんのご健闘を祈ります。頑張って下さい。

人材教育研究所 所長  末木 譲


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